Sternhimmel

裏声Pがシンデレラガールズのアイドル(主に岡崎泰葉)について考えたり雑な感想を言ったりするブログです。Twitter:@usagoe716

岡崎泰葉は「シンデレラストーリー」を辿れるか?ー彼女の求める「普通の女の子」

アイドルマスターシンデレラガールズは、その名に冠するとおり「シンデレラストーリー」を描いています。

シンデレラストーリーとは童話「シンデレラ」の主人公になぞらえた物語です。有名でない、一般人である女性が苦労の末に成長し、大きな幸福を手にすることで一流の場に出るなどといった意味が一般的ではないでしょうか。

実際にシンデレラガールズでは、そのアイドルの初めての登場で多くの場合デビュー前の私服や、以前の仕事の制服などを身に纏っています。そして実に「一般人らしい」セリフを口にする。「アイドル」というものに対する距離があらわれています。

それでは以下に何例か、「アイドルというものと自分を遠い場所においていた」プロフィールコメントの一部を挙げてみます。

藤本里奈
えー、アタシがアイドル?超ウケる!何言ってんのー?キャハハ!

神谷奈緒
は、はァ!?な、なんであたしがアイドルなんて…っ!てゆーか無理に決まってんだろ!

荒木比奈
アイドルっスかぁ〜…? いやアタシはちょっとそういう華やかな世界の住人じゃないんで、いいんでスよー…。

この3人は当然一部で、ほかにもアイドルなど自分には出来ないといった意味の発言をしているアイドルは多くいます。もちろん反対に、アイドルになることが当たり前といった発言をしているアイドルもいるのですが…。

どちらにせよ、日常を繰り返していた少女たちが非日常に足を踏み入れ、輝くステージに向かうこと・普通の女の子からトップアイドルになること、がシンデレラガールズ全体のメインストーリーと考えられるでしょう。

そしてそこには魔法使いが必要です。シンデレラは誰かから援助を受けることで宮殿のダンスフロアに足を踏み入れることが出来るようになるのです。

シンデレラガールズにおいてこの「魔法使い」はプロデューサーであると言っていいでしょう(佐久間まゆなど、プロデューサーが魔法使いと同時に王子役を務めなければいけない場合も多少見られます)。

つまり、シンデレラガールズのプロデューサーの仕事は「普通の女の子をトップアイドルにすること」です。ですから、少女たちがトップアイドルになるには「普通の女の子である自分」から脱却しなければいけません

ですが、この「普通の女の子」というキーワードを何度か繰り返しているのが岡崎泰葉というアイドルです。

岡崎泰葉の衣装Rの親愛度MAXセリフを見てみましょう。

○○プロデューサー、アイドルにならなかったら私は普通の女の子だったのかな…? 普通の幸せって、なんだろうって…

「普通の女の子でいたかった」とも解釈できる台詞です。彼女は幼少の頃よりモデルとして活動していました。つまり、「普通の女の子」というものをほとんど経験せずに彼女は人生を歩んできています。岡崎泰葉は衣装Rが初登場カードですが、もちろんその時点で芸能界という場所に立っているということ。前述の”宮殿のダンスフロア”にすでに足を踏み入れた状態からアイドルに向かう、すなわちほかのアイドルとは逆方向を辿ることとなります。

さらにアイドルプロデュース「チョコレートフォーユー!」のエンドレスプロデュースーーお仕事が終了しプロデューサーと過ごす中で、「普通の女の子」というキーワードを幾度か口にしています。

「今はアイドルじゃなくて…普通の女の子です。な、なんて…」

普通の女の子って…どんなバレンタインを過ごすのでしょうか…」

「今だけは普通の女の子みたいなことをしたくて…。バレンタインはこんな風にPさんに渡せれば…」

「私、昔から芸能界にいたので…普通の女の子のバレンタインがどういうのかよく分からないんです」

岡崎泰葉はアイドルというものが「普通の女の子」とかけ離れていることを知りながら、「普通の女の子」に憧れています。チョコレートフォーユー!エンドレスプロデュースではおしゃれをしてみたことや、カフェで一休みしたいこと、クレープの食べ歩きをしたいこと、友チョコを渡してみたいことなどをプロデューサーに語りました。岡崎泰葉にとってそれは今までできなかった「普通の女の子がすること」なのでしょう。

けれど、「普通の女の子になりたい」が「アイドルをやめたい」に直結するわけではありません。アイドルに対して後ろ向きと取れるような発言をしたのは衣装Rの親愛度MAXセリフだけで、仕事を重ねるうちにアイドルを楽しめるようになった彼女は「アイドルになれて良かった」と言います。すなわち岡崎泰葉は「自分の思い描くアイドルを求めながら、同時に普通の女の子である自分も探していく」ことを目標としているのではないか?と考えました。

「普通の女の子」が魔法を掛けられて「シンデレラというトップアイドル」に向かっていくのではなく、「普通ではなかった女の子」が魔法を掛けられて「アイドル」である「普通の女の子」に向かっていくのです。

アイドルと普通の女の子、という二つの要素を共存させる、という意味で岡崎泰葉はシンデレラガールズの中で異端な存在かもしれません。

さらに「普通の女の子から脱却させ輝かせる」ことが仕事であるはずのプロデューサーも、岡崎泰葉の場合はそれを強要しません。むしろ岡崎泰葉には「普通の女の子」でいて欲しい、と考える担当プロデューサーも多いのではないでしょうか。

そして岡崎泰葉は「アイドルになったことで普通の女の子にもなれた」とも考えているのではないかと思っています。例えばモデルを続けていたら。例えばモデルを辞め「一般人」に形だけ戻ったら。ゲーム内ではありませんが、公式アンソロジー「ニュージェネレーションズ」の中で他のアイドルにモデル時代を知られている描写がありました。モデルを辞めたところで、「普通の女の子」に戻ることが出来るかといえば難しいでしょう。

対してアイドルになったことで、岡崎泰葉は「普通の女の子らしいこと」が出来るようになりました。事務所に友人が出来たことを嬉しそうに語ったり。家族に仕事の話を笑顔で出来るようになった、と語ったこともあります。これこそが岡崎泰葉の求めていたことであると言えるのではないでしょうか。

確かに、「普通の女の子が魔法をかけられることではじめて一流の場に立ち幸福を手にする」という書き方をすれば、そのシンデレラストーリーを辿ることは岡崎泰葉には出来ません。

しかし、「女の子が求めていた”得られなかった幸福”を、魔法によって新しい世界に立つことで手にする」と書くならば、それも間違いなくシンデレラストーリーであり、まさに岡崎泰葉の辿った道のりを示すことが出来るでしょう。